
黄金に輝く草原に、彼は堂々と立っていた。
乾いた風がぼくの髪を撫でる。
ここはどこだろう。
名前も知らない場所だけど、そんなことはどうでもいいような気にさせてくれる。
「いよいよ、有馬記念だ」
「そうみたいだね」
「覇気がないぞ」
「出しようがないよ、これだけはずれ続けたら。ぼくの気持ちも考えてくれ」
「今年も負けかい」
「不本意だけど、それが現実みたいだ」
「もちろん逆転は狙うつもりだろ?」
「やるだけはやってみるよ。無駄なあがきだとは思うけど」
「それでこそギャンブラーだ。最後の最後までBETする」
「ほんとはしたくないけどね。例のキャンペーンがあるだろ」
「ああ、あれね、あれ」
「わざわざ罠だとわかっててかかりに行くなんて、ぼくもつくづく頭が腐ってるよ。病気なのかもしれない」
「人はみんな病気だよ。多かれ少なかれ」
「だとしてもだよ。今日のホープフルSもはずれたし」
「史上初めてだろ。1戦1勝の馬が勝利したのは。仕方ないよ」
「2着のフォルテアンジェロはわかってたんだよ。あとちょっとだったのに。阪神Cのルガルだって、パドックでいいのはわかっていた。外枠はきびしいだろうなと思って切っちゃったよ。まさかあんなロケットスタートを切るなんて反則だ」
「それも競馬だよ」
「まったく便利な言葉だよね、それも競馬だ。イラっとする」
「有馬記念の予想はしないの?」
「しないよ」
「どうして?」
「当たらない予想に価値なんてないからさ」
「それも競馬だよ」
彼は、ぼくを見てニヤッとしていた。
馬のくせにすごく嫌味というかフックが効いている。
ぼくは本当にイラっとした。
「はずれるのはいい。ウソをつきたくないんだよ」
「どっかの競馬ユーチューバーみたいに?」
「あまり馬券はうまくないかもしれないけど、すくなくとも他人を騙していない。競馬に関してはね」
「誠実でありたい?」
「ぼくはそんな殊勝じゃないよ。メイショウタバルの単勝を買うつもりだった」
「だった?」
「天皇賞秋が終わったときからね。オッズを見てやめた」
「君の悪い病気が発動だ」
「だとしてもだよ。スローペースはまちがいないんだろう。枠の並びが不気味だ」
「どう不気味なの?」
「武騎手がスタートでヨレそうな気がする。ちょいちょいあるんだよ、G1で。レガレイラとミュージアムマイルはスタートで不利を受けるかもしれない。そうでなくても、2頭ともスタートがあまり早いタイプではない」
「ジャスティンパレスは? ジャパンカップでは不利を受けての5着」
「過去の有馬記念を見直したけど、中山のコーナーが良くないのかもしれない」
「ふむふむ」
「穴はアドマイヤテラかタスティエーラだと思うけど、枠がなあ」
「つまり?」
「ダノンデサイルが信頼性が高い気がする。枠の並びがいい。メイショウタバルを見ながら進んでいけばいいだけだからね」
「ということは、ダノンデサイルの単勝かな?」
「それがちょっと……まいったな」
「なに? まだなにかあるの?」
「君のいう通り、ぼくの悪い病気が発症したみたいだ」


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