
「高校の文化祭で、美術室に見慣れない制服の女子が入ってきた。展示してある作品を一つ一つ見て、受付をしていたBの目の前に立つと、あのスケッチを描いたのはあなたでしょと、すてきな笑顔で話しかけてきた。それが彼女との出会いだ」
「わかった。Aの恋人は美人だろ。それもかなりの」
「どうしてわかったの? スケッチを一度見せてもらったけど、長い黒髪をした落ち着いた雰囲気の美人だったよ」
「やっぱりね、そうじゃないかと思った」
「彼女は地元で有名なお嬢さま学校に通う女子生徒だった。Aとは家族ぐるみの付き合いで、家が近いこともあり物心がつく前から一緒にいた。ほとんど兄妹みたいな恋人だ。兄であり弟であり、姉であり妹であり。いつから付き合いだしたのかわからない。というか、好きという感情をすっ飛ばして二人は強く結ばれていた。そこには無論肉体関係があった。かなり幼いころから。二人の両親は黙認していた。それどころか二人をくっ付けようとしている節があったそうだ。Aの悩みはまさにそれだった」
「どこに悩む必要があるのか理解不能だね。男にとって夢のような状況だ」
「他人に人生をコントロールされるような漠然とした疑問さ。不安かな。だれだって、自分の将来が操られるのは気持ちいいものじゃないよ、とくに思春期であれば」
「そういうもんかね」
「たまにAの家に遊びに行くと、ノックもせずに部屋に入ってきて二人の会話に参加した。壁には、Bが描いたあのスケッチが飾ってあった。当然、彼女は自分も描いてほしいという流れになる。Bは快く承諾した。断る理由はないからね」
Bは、その日について詳細をぼくに話してくれた。
雲ひとつない穏やかな日の午後、窓からは気持ちのいい風が吹ている。
ベッドに腰をかけている彼女を、Bは熱心にデッサンしている。すぐ横では、Aが自前のギターを弾いている。
急に彼女が肩を揺らす。
「ごめんなさい。だって、いつまでたってもギターが下手なんだもの」
「大事なのは気持ちなんだよ。上手くなろうと努力することに価値があるのさ」
「いっちょまえにアーティスト気取りなことをいって。いつも同じ曲ばっかり」
だれよりもAの演奏を気に入っているのは彼女だ。Bにはそれがよくわかっていた。
Bは、二人の友人になれたことがうれしかった。
Aは二人のためにギターを弾いて、Bは親友の恋人のスケッチを描き、彼女は彼氏の親友が描く絵のモデルになる。
完璧に調和の取れた世界だ。
「理想のカップルだったんだね。Aとその恋人は」
「女子高の知人に声をかけて、4人でダブルデートをすることもあった。遊園地や映画館に。でも、ほとんどうまくいかなかった」
「どうして?」
「Bは口下手だし、女の子をリードする術を持ちあわせていなかった。あの年頃の女の子は刺激を求めてるだろ。絵の話題に興味があると思う? それに彼女が連れてくる友人は、家が金持ちのお嬢さま育ちというのもよくなかった。上品すぎて、平凡な家庭のBと会話が噛み合うわけがない。一人だけ、家が造園業をしている女子と半年ほど付き合ったけど、連絡を取らなくなって自然消滅した」
「よくある話だ」
「彼女としては、Bにも恋人を作ってほしかったのだろう。2・2のほうがどこに行くにしてもバランスもいいしね。あきらめて3人で出かけるようになった。Aが陸上の大会に出る時には二人で一緒に応援した。彼女にすれば休みの日まで束縛する必要はなかったんだ。AにしてもBと気ままに遊んでいるほうが楽しかった」


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